フラワー争奪戦

フラワーがYUYAMI号の艦内を歩いている。

頭部をゆらゆらと揺らしながら、

小さな粒子を振り撒いている。

見た目は植物のようだが動く機械なのだろうか。

花弁の色は、その日、その時によって違った。

淡い紫のときもあれば、濃い橙のときもある。

歌によって発光するときもある。

鳴き声は機械音には思えないほど自然な感じがする。

「きゅー」、「きゅるる」、「むきゅぅ」

フラワーは通路の真ん中は歩かない。

ドアの前で止まり、花弁を少し震わせると、ドアが開く。

アラキの工具箱に乗っかる。

ションの記録端末を読む。

マークの横で休む。

ヨウスケの食事を嗅いで、鳴き声を出す。

水を浴びるときは冷水がいいらしい。

リズム感がしっかりしているらしく、

体をくねらせ、跳ねる。音に合わせて。

「フラワー?どこ?」

ションがフラワーを探している。

「おーい、フラワー」

インシュンもフラワーを探している。

やってきたチオも参戦する。

「ちょっと待って、今から新しい歌の練習するから私にフラワーが必要なのよ」

「私だって今肩が痛いからフラワーが必要なの」

「僕はこれから睡眠を取るんですけど、フラワーがいると悪夢を見ずに済むんです」

「ここにいるぜ」

椅子に座って佇むマークの膝の上にフラワーが乗っている。

「連れてくなら連れてけ。しばらくここにいる」

ションがフラワーを抱き抱えて連れていく。

「ちょっと、ずるい」

「フラワー人気者ですねー」

アラキの艦内放送が流れる。

「フラワー、ちょっと制御室に来てほしい。トラブルが発生した。かもしれない」

「えーー、何なのみんなして」

「かもしれないって何?本当なの?」

「やっぱり人気者ですねー」

「しょうがない、制御室行っておいでフラワー。また後でね」

フラワーは通路を歩き出した。

「おっ、フラワー、いいところに。ちょっとだけ付き合ってくれ」

ヨウスケは歩くフラワーを抱えてトイレに駆け込む。

「食い過ぎたみたいで腹痛いんだ」

自動ドアが開きアニンが制御室に入る。

「トラブルって聞いたが、何が起きた?フラワーはもう来たのか?」

「いや、まだ来てない。これから正面の星雲に突入するけど、音位相のズレが生じた場合、反重力スピーカーを起動させてキックを太くしようか相談したくて」

「フラワーに相談?やれやれ人気者だな」

「どこ行ったんだろう?けっこう待ってるけど」

「来たら教えてくれ、俺も用があるんだ」

再び自動ドアが開き、アニンが出て行く。

「ねえ?フラワー見なかった?」

「俺も探してるんだ、制御室から出ていってかなり時間経つよ」

「シャワールームにはいなかったですよ」

「どこいっちゃったんだろ?」

「何!?フラワーが消えた?」

「気付いたらいなくなっちゃった、どうしよう」

「食堂や音響室も探したんだけど」

「まさか船外か!?」

「それはないでしょ」

「でもフラワー、自動ドア開けられますよね」

インシュンが不安そうに言う。

アラキが考える。

「いや、外部ハッチは俺の認証がないと開かない。多分。いや、絶対。……多分」

「多分が多い!」

ションが叫んだ。その時だった。

通路の奥から、低い声がした。

「うるせぇな」

全員が振り返る。

休憩室のドアが開いていた。

中にはマークがいた。

椅子に深く座り、片肘をついている。

その膝の上で、フラワーが丸くなって眠っていた。

花弁は、淡い紫色だった。

呼吸のように、ゆっくり光っている。

「……いた」ションが小さく言った。

「いたじゃない!」

チオが近づこうとした瞬間、マークが片手を上げた。

「起こすな」全員が止まった。

フラワーは、眠っていた。

船内を歩き回り、肩を癒し、腹をなだめ、歌を聴き、位相を整え、悪夢を遠ざけたあと、ようやく眠っていた。

「……疲れてたんですね」

インシュンが言った。

「そういやアニンさんの用って何だったんですか?」

「……まあ、いい。寝かせとけ」

「そりゃそうだろ」

マークはフラワーを見下ろしたまま言った。

「お前ら、頼みすぎなんだよ」

誰も言い返せなかった。

「俺は何も頼んでねぇぞ」ヨウスケが言った。

全員がヨウスケを見た。

「腹痛でトイレに連れていったでしょ」

チオが言う。

「それは緊急医療だ」

「ただの食べ過ぎっ」ションが即答した。

その日から、フラワーの取り合いは禁止になった。

ションが新しく作った表には、こう書かれている。

フラワーは誰のものでもない。

必要な時は、フラワーが来る。

寝ている時は、絶対に起こさない。

アラキはその下に、小さく書き足した。

ただし、制御室への協力は歓迎。

チオが線を引いた。却下。

アニンがさらに書いた。

仲間は道具じゃない。

ヨウスケが最後に書いた。

腹痛時は例外。

ションが即座に消した。

マークは何も書かなかった。

ただ、膝の上で眠るフラワーを見て、

小さく息を吐いた。

「……人気者も大変だな」

フラワーが、眠ったまま鳴いた。

「むきゅぅ」

YUYAMI号は、今日も静かに進んでいた。

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